銀樹の大河ドラマ随想

2018年「西郷どん」伴走予定。「おんな城主 直虎」(2017)についても平行して書こうかと。

おんな城主 直虎 第2回「崖っぷちの少女」 感想

やんちゃ姫の初恋は命がけの大騒動

第2回:2017年1月15日(日) 「崖っぷちの少女」。

 

あらすじ

 井伊谷領主井伊直盛のひとり娘:おとわ(後の直虎)は、第1回で叔従父(いとこおじ)である亀之丞のいいなづけとなった。しかし、その直後に亀之丞の父:井伊直満が井伊家の主家である今川氏に対し、謀反を企んでいたことが発覚。直満は今川氏の本拠:駿府に呼び出されて処断を受け、首となって井伊谷に戻る。またそれだけでなく亀之丞本人も、今川家から命を狙われる身となってしまうのだった。親の決めた縁ではあるもののお互いに淡い恋心を抱くようになった2人は、別れ際に、「必ず戻る」(亀之丞)「待っておる」(おとわ)と約束を交わしあう。

 亀之丞を無事逃がすため、おとわは彼と互いに着物を取り替え合い、おとりとなって時間を稼ぐことにした。策は見事に功を奏して亀之丞は追っ手をかわすが、おとわは危険な振る舞いを母の千賀からきつく咎められる。一方、直満謀反が今川家につつ抜けだったのは井伊家家老:小野和泉守政直の働きによるものだった。その手柄により小野は井伊家目付を今川より任ぜられ、更に嫡男鶴丸をおとわの婿にという下知も得る。隠居した先々代の井伊直平や井伊家縁戚の家臣:中野直由はこれに反発し、井伊家中の雰囲気はあわや一触即発に。

 一方、小野家の鶴丸はおとわに好意を抱いてはいるが、あまりにも強引な父のやり方は不満であり怒りも感じていた。鶴丸はその気持ちをストレートに父政直にぶつけるが、父の方はそれを正面から受け止めようとはせず、親子間の空気は険悪になっていく。また、おとわ自身も鶴丸のことを嫌ってはいないものの、目下の所は亀之丞のことで頭がいっぱい。鶴丸は誰とも気持ちを通わせられなくなり、孤独感を深める。

 そして、鶴丸との新たな夫婦約束を両親から言い渡されたおとわは「亀之丞を待っていなければ」と思いつめ、夜中にこっそり家出をしてしまうのだった。しかし子どもの足のこと、遠くに行く前に空腹と疲れを覚え、領内のあばら屋で休息を取る。ところがそこには流れ者の解死人が住んでおり、彼の手で朝には屋敷に連れ戻されてしまう。母の千賀はまたも立腹する。

 思い余ったおとわは「出家をすれば鶴とめあわされずにすむ」と思いつき、髪を削ぎ落とすのだが…。

 

戦国ラブ・コメディ(?)の裏でパパは苦悩する

初見で思ってたのよりずっとラブ・コメ風味だった

 亀之丞に恋するおとわと、おとわの王子様=亀之丞。秘かにおとわを想いながらも耐え忍ぶ鶴丸。この関係と、恋するおとわが亀のためにあれこれガンバる!姿は記憶にあったものより、はるかにラブ・コメでしたよ。

 あれですね、おとわを演じた新井美羽ちゃんが当時まだ10歳・亀之丞を演じた藤本哉汰くんが13歳ということで、フェロモン足りてないというか第二次性徴前だからというか、色っぽさは全然無いのですが。たまにいるよね、子ども時代に、こういう真剣な恋(…?…)しちゃう子たち。これは恋と言って良いのかどうか…でも本人同士は真剣に好き合ってるよね、みたいな。で、フェロモンが出ていないため周囲にはイマイチわかってもらえてなさげな感じ。あるあるこういうの、というリアリティを感じました。

 でまあそれが、なにせ時代が戦国時代ですので、身代わりになるっちゃ命がけ、家出をするっちゃ命がけ、いちいち命がけな訳です。で、当人はお姫様育ちのためその命がけ具合をイマイチ理解出来ておらず、もっぱら周囲(特に両親)が代わりに寿命の縮む思いをしています。

 

おとわが人生初の挫折体験をした…描写だったかもしれない

 ところで、この回はもしかしたら、一見能天気でお気楽そうな主人公=おとわが生まれて初めての挫折や屈折を経験した、そんな体験を描写した回として記憶されるすべきかもしれません。

 第1回ではまったく無邪気そのものだったおとわが、亀之丞との初恋を経験しました。そしてこの第2回では、その初恋の灯がお家の都合であっけなく吹き消されようとしています。この体験によりおとわは「自分が井伊家領主のひとり娘でなかったらよかった。自分がいなくなれば良いのだ」と思い込むことになります。その結果、家出を試みることになるのです。

 初回でも、もともと自分が家督を継ぐつもりだったおとわに「亀之丞を婿に迎えて跡目を継がせる」というプランが示され、彼女はそのことを最初不服に思いました。しかしそれは母の「どちらにしても同じこと。結局は後継ぎを儲けねばならないので、結婚しなければならない」という現実提示、そして、亀之丞を好きになったという状況変化により、おとわにとって(おそらく)人生最初の精神的な危機を乗り越えました。

 

 ところがこの回でおとわは、新たな状況の変化により、芽生えたばかりの亀之丞への想いを断ち切り鶴丸と婚約せよ、それ以外に井伊家が生き残る道はないと両親に言い渡されました。

 命の危険が迫る中「必ず戻る」「待っておる」と言い交わした約束は彼女にとってとても大きな経験だったでしょう。しかし、個人にとってどんなに大切な約束でも「お家」のためには方向転換を強いられざるを得なくなる。そんな戦国ならではの理不尽を、姫育ちのおとわが生まれて初めて身をもって体験します。そんな状況に嫌気が差し「自分なんかいなくなれば良いのだ」と家出を企てても、見つかって連れ戻されれば「心配し必死になって探した皆のことを考えなさい」と叱られるのです。亀のことを思う気持ちは分かったが、井伊のみんなのことも考えて、と。その理屈が全く理解できないほどおとわは幼くはありませんでしたが、全てを飲み込んで引き受けられるほど成熟してもいませんでした。

 第2回はそんな大人でも辛い葛藤を、幼いおとわがどう解決しようとしたか。そんな展開になっています。

 

描写は少ないものの垣間見える井伊直盛の苦悩にも注目したい

 ドラマのメインは、主人公:おとわが巻き起こす騒動が中心。表面的にはコメディ・タッチの(しかし今川方の追っ手がシリアスさを醸し出し一部サスペンスタッチでもあり)展開が繰り広げられますが、その裏であちこちにおとわの父:井伊家当主=直盛の苦悩が描写されているんですね。

 これ、第1回から非常に目立たない感じで、ポロッ、ポロッと出てくるんですが、こうして振り返ってみると「脚本上手いなぁ、設定細かいなぁ」と思います。

 まずちょっと遡りますが第1話より。井伊直満の息子:亀之丞を将来おとわの婿に、という話が出た(であろう話し合いの)後、直盛はそれについての決定を悩んでいるふしがあります。おとわと野駆けに出て、山上の城まで行った時ですね。

 次にまだ第1話の時点ですが、駿府に呼び出された時の直満のリアクションに不審を抱き、龍潭寺南渓和尚にこっそり相談する場面が。つまり、そういう場合に、家臣の誰にも相談出来ないということです。

 直満の死後も、祖父(直満にとっては父)直平を始め中野・奥山ら井伊家縁戚の家臣らは、直満の謀反よりそれを今川に伝えた小野政直への怒りをあらわにし、直満の行動に全く頓着していません。

 しかし、実際には、直満は当主直盛の頭越しに今川への謀反を企み、密書をしたためていた訳ですから、直盛に対しても造反しているのと同じ事です。当主として直盛は、その事に対してやり切れない思いをしていた筈なのですが、祖父の存在が大きいため、それを表に出せない。

 また家老の小野もこの件を利用して隙あらば主家乗っ取りを、という態度を示しだしているため、こちらも迂闊に目を離すことができません。妻の実家である新野家(妻の兄:新野左馬助)はかろうじて信を置くことができますが、穏やかな義兄では血気盛んな井伊家臣団を抑え切れそうもない…。

 そんな様子がポイントポイントできっちり描写されています。

 ただ、けっして説明過多ではないんですね。直盛が一瞬見せる表情や、言葉を飲み込むさま、何気ない一言や一場面がサラッと挟み込まれる程度です。おかげでこの部分がやや伝わり難かったのですが、それはドラマとしての面白味ということを重視したり、バランスを考えてのことでしょう。

 後々への伏線にはなっていますので、緻密な構成だと評価したい部分です。

 

おまけ=鶴丸とあばら屋の男

 特筆したいのは苦悩する小野鶴丸(小林颯くん演)の翳りある風情が、もう成長後の高橋一生(本役)味を非常に帯びていること。NHKの子役選びすごい。

 そしてもう一人、「あばら屋の男」(解死人)として登場したムロツヨシ。おとわが家出をしたときに出会う、あばら屋を住まいとし村の解死人として養われている流れ者ですが、怪しげなところとコミカルなところとただ者ではない雰囲気が強烈でした。ここだけLIFEかと思った。

 

面白いがどう評価してよいか戸惑う2回目

 全体としては、面白かったのですが、第2回は初回に比べややコメディに傾いていた感が。それで、相変わらず「この先どうなるの…」といった不安感のようなものがつきまとっていた回だったように思います。

 第1回ではちょっと前まで「ガハハ」と豪快に笑っていた、主人公婚約者の父(注:井伊直満のこと)が、あっけなく首桶に入れられて帰ってきました。うわー怖い、さすが戦国、となった後に、一転してこの第2回では主人公の行動がほぼコメディ、時々それを通り越してまるでギャグになっていたりします。鶴丸とその父小野政直の場面はシリアスだったのですが、この調子では果たして今後は?と観る方も戸惑いました。これ、大河ドラマだよね、大丈夫…?という思いといいますか。

 今にして思えばこのアップダウン感は最後まで続きますし、1年視聴した後はすっかりリズムを飲み込んで、物語に引き込まれていきました。しみじみ振り返るに、この「おんな城主 直虎」って大河ドラマ史上稀に見る大冒険だったなぁと思います。