銀樹の大河ドラマ随想

2018年「西郷どん」伴走予定。「おんな城主 直虎」(2017)についても平行して書こうかと。

西郷どん 第4回「新しき藩主」 感想

島津斉彬薩摩藩第11代藩主になるまで

第4回:2018年1月28日(日) 「新しき藩主」。

 

あらすじ

 父吉兵衛(風間杜夫)から、赤山靱負(沢村一樹)に切腹の沙汰が下ったことを聞かされた西郷吉之助(鈴木亮平)。

 その出来事の理不尽さに怒り、登城して赤山助命を嘆願しようとものすごい勢いで駆け出しますが、有村俊斎(高橋光臣)ら、同じ赤山門下生の仲間達に止められます。一同は、大久保正助(瑛太)の発案で、藩主斉興(鹿賀丈史)の五男で愛妾お由羅の方(小柳ルミ子)の息:久光(青木崇高)に赤山赦免を直訴することに。しかし久光は「おいに何ができる」と彼らの願いを一顧だにせず拒絶するのでした。

 そんな久光に母お由羅は「お由羅の方が斉彬やその子を呪詛している」と面白おかしく描写された江戸の瓦版を見せます。斉興と斉彬父子の不仲は、薩摩だけでなく江戸でも不穏な噂となっているようです。

 直訴のせいで、久光の供回りに打ちのめされた吉之助が妹:琴(桜庭ななみ)に手当てされている処に、先週助けた中村半次郎(中村瑠輝人)が唐芋を携え、西郷家にお礼を述べにやってきます。そこに赤山の弟:島津歳貞(後の桂久武井戸田潤さん演)も訪れ、吉兵衛には赤山の介錯を、吉之助には今から門弟らと共に赤山邸に来てくれと依頼しました。別れの盃を交わすためです。

 吉之助は父に頼み込み、切腹の場に同席します。靱負の切腹は見事なものでしたが、吉之助は悲しみとショックのあまり「あん妾を切る!」と言いだし、またも駆け出そうとするのでした。追いすがった吉兵衛が「赤山様のお志を無駄にすんな」と必死に止めます。吉之助は腸の底から慟哭を絞り出し、号泣します。

 斉彬派の粛清はその後も続き、西郷家の隣家=大久保家の次右衛門(平田満)も連座したとされ、喜界島へ遠島の沙汰が下りました。息子である正助も記録所書役を罷免され、謹慎処分を申し渡されます。吉兵衛と次右衛門も、子の吉之助・正助同様子どもの頃からの友人であったため、2人は相撲勝負で別れを惜しむのでした。

 前回から江戸の斉彬宛に数々の意見書を送り続けていた吉之助は、どうか一日も早い藩主襲封をと、重ねて斉彬に嘆願書を書き綴ります。

 嘉永4年(1851年)正月、薩摩藩主斉興は江戸で12代将軍家慶に年賀の挨拶のため登城。その場で、老中阿部正弘(藤木直人)より引退勧告を受けます。しかし、斉興は肯おうとしません。

 藩邸に戻った斉興の前に斉彬が現れ、「薩摩藩江戸幕府に隠れて行っていた(琉球・清国等との)密貿易を目こぼしするかわり斉興の隠居をと要求されている。呑まなければお家が取りつぶしになる。」と告げ、強引に藩主交代を迫りました。それでも尚、斉興は「お前に藩主の座を譲っくらいなら、わしは島津家もろとも消えっで。そいほどわしは、お前が好かーん!」と更に拒絶。そこで、斉彬は非常手段に出ます。

 メリケン(米国)から密貿易した6連発コルト拳銃に一発だけ弾を込め、ロシアンルーレットで生き残った方が勝ち、という方法で、どちらが正しいか天の声を聴こうというのです。斉彬が先に引き金を引きましたが、弾は不発でした。斉興は引き金を引くことができず、ここに勝敗は決します。島津斉興はとうとう、隠居を承諾しました。

 藩主交代の報はやがて国元薩摩へももたらされ、吉之助以下元赤山門下生たちは大歓喜。「赤山先生が仰っていたように、薩摩は良か国に変わっていきもんそ」と期待をかけます。同年5月8日、斉彬はとうとう新藩主としての薩摩お国入りを果たしました。人々は大歓声を上げて新しい藩主を喜び迎え、新しい時代の幕開けを言祝ぎます。

 

赤山靱負、無念の切腹。薩摩兵児は多くを語らず

静かに散る赤山先生、そして足掻きに足掻く吉之助

 第4回前半のハイライトは沢村一樹さん演じる、薩摩藩重臣赤山靱負の切腹です。

 師と仰ぐこの人に切腹の沙汰が下った時、吉之助はこの運命を承服出来ず、登城して不服を申し立てようとしたり、久光に直談判を試みたり、大いに足掻きます。刑の前日に赤山邸に呼ばれた時も、靱負本人に食い下がろうとして正助にたしなめられています。切腹を見届けた後は、自分が幼い頃の負傷のため刀を存分に振るえないことも忘れて、お由羅を切りに行こうとするほど自分を見失いました。

 この描写や演出ですが、正助や父吉兵衛のリアクションにより「カッとなると我を忘れて強引に行動しようとする」吉之助の現在の性格は、必ずしも肯定的に描かれていないことが判ります。見ていてついイラッとしてしまう、という方もいると思いますが、それで正解、という作りです。でも、今の吉之助はとにかく政治的に無力なんですね。それが、これからどう変わっていくのか。そこは今後の見どころのひとつだと思います。

 

 ところで、対する赤山先生ですが、こちらは最後の最後まで、見苦しいところを全く周囲に見せません。誰かを呪うでもなく、不満や愚痴をこぼすこともない。ただ、門下生に「これからも切磋琢磨して人間をみがけ」と言い残すだけです。切腹の作法も完璧。静かでしたが、インパクトのある沢村一樹さんの演技でしたね。足掻き抜く吉之助と対照的でもあり、観ているこちらにも確実に何かを残してくれました。

 思えばこの赤山という人、初回からドラマ内ではあまり多くを語っていません。もっぱら聞き役に徹する人でした。でも、こういう人って本当は貴重で、多くの人から頼られるタイプなんですよねぇ。失うのが惜しい。

 その代わりというべきなのか、本日から登場したのがその弟にあたる島津歳貞=後の桂久武。彼は今後、西郷隆盛のよき友人となっていき、西南戦争にも西郷側として参加します。これからストーリーにどう絡んでいくのか、楽しみです。

 

不器用な次右衛門さぁも、多くを語らず喜界島へ

 西郷家の良き隣人、大久保次右衛門さぁもこのお由羅騒動に巻き込まれ、喜界島に流されることになってしまいました。「西郷どん!」原作ではこの次右衛門流罪に対して、吉之助が怒りを見せたという筋書きになってます(赤山靱負はあまり登場しません)。ドラマでは、不器用で口べたな次右衛門が家族とろくに言葉も交わせず、役人に引き立てられて行くところを、これまたちょっと不器用な吉兵衛さんが強引に引き留め、相撲を取って別れを惜しむという場面が入りました。

 ここは、相撲を取る父であり夫の次右衛門を、目に涙をいっぱい溜め、言葉もなく見つめ続ける大久保家の家族たちが印象的でした。いつもワイワイガヤガヤしている西郷家とは対称的で、だからきっと両家の仲が良いんだろうなぁと思ったり。切なくて温かい場面でしたよ。

 

肝練り?びっくりロシアンルーレット!!

斉興、将軍家から茶入れを贈られる(公式引退勧告)

 ここで、ちょっと時間の経過を軽くおさらい的にメモ。

 第3回で調所広郷が亡くなりましたが、あれが嘉永元年12月(旧暦)のことでした。大久保次右衛門の流罪、赤山靱負の切腹は、嘉永2年(1849年)及び嘉永3年(1850年)の出来事です(史実は順番が逆で赤山の切腹が後)。ちなみに第2回は弘化3年(1846年)でしたので、鈴木亮平さん演じる吉之助が登場してから、第4回の前半部までで約4年経ってます。

そして、明けて嘉永4年正月。島津斉興は、年始の将軍謁見の後、老中の阿部正弘経由で朱衣肩衝(あけのころもかたつき)という名物茶入れを下賜されました。「これからは藩政から下りて、ゆっくり茶道でも究めて」という引退勧告だそうです。引導を渡された感じでしょうか。幕府としては、世継ぎの斉彬から密貿易の事実などを報告されていますので、もうこのまま斉興に藩主を任せてはおけないよ、という意思表示ですよね。

 で、この茶入れを贈られ引退を迫られたのは史実だそうです。

 しかし、このドラマの斉興はまだ粘ります。

 

父子の確執ここに極まり、天の声を聴くと言い出す斉彬

 老中の阿部氏と結んでいる斉彬は、江戸の藩邸にいる父の前に参上し、改めて当主交代を迫りました。もう密貿易の詳細や琉球派兵を幕府の指示通り行っていないことは全部筒抜けなので、言い逃れがきかない。父上の引退と引きかえに島津家の存続を許して貰えるそうなので、ここはどうかご隠居下さい、と涙ながらに訴えてみます。

 ところが、前述したように斉興は「お前に藩主を譲るくらいなら島津家を潰した方がまし!」と言い切るんですよ。もうどんだけ息子を嫌いなの!そこで、斉彬はチーンと鼻をかみ(これは渡辺謙さんのアドリブだそう)、鼻をかんだ懐紙(?にしてはやけに大きい)をむんずと投げ捨て、(密貿易で手に入れた!)拳銃を取り出し、ロシアンルーレット対決を父に挑むのでした。

 「天の声を聴きましょう。」

 

 え!!!えええええええーーー!!!!!

 すごい思いがけない、あまりにも斜め上過ぎる展開。twitterのタグTLも湧きに湧きました。薩摩には昔から「肝練り」という、火縄銃を使った薩摩式ロシアンルーレットがあるとかないとか、そんな話題まで登場しまして。また斉彬が先に試して無事済み、父に拳銃を渡すと、抜刀して成り行きを見守っていた藩士達が、一斉に納刀して蹲踞するという。「見届けさせて頂きます」っていうことでしょうか…。さすが、薩摩隼人の発想は並とは違うんだな…。

 と、本当は歴史好きとしてここは納得するところじゃなかった…のかもしれないけど、絵面の強烈さと演じる俳優さん達による迫真の演技とで、理屈じゃない部分ですっかり納得。あーもうこれは仕方がない。

 かくして薩摩藩の藩主は第10代島津斉興から、第11代島津斉彬へと交代いたしました。

 また、この父子対決部分のセリフと演技がいちいち、リアル仲の悪い親子そのものなんですよ…。あー、あるあるこういうの。っていう。

 もちろん、こんな剣呑な対決は普通の人はしないですけど。でも、話せば話すほどお互い意固地になっていき、売り言葉に買い言葉で、しかも親子だから変に遠慮が無くて、もう雪だるま式に大きくこじれて行っちゃうところとかは、ホントあるある。実にリアルな身内の修羅場描写でした。

 やっぱりこういう所はさすがヒットメーカー:中園ミホさん。お見事です。すごい力技だとは思いますけど、気持ちの動きがきちんと描かれているので、役者さんの技倆次第でなんとかなっちゃう。うん、これをやれるのも(脚本家の)才能のうちだと思いますよ。

 

まとめ ー さあ次から新しいターンだ

次回から主人公は空回りをせず、前進するのか?

 という訳で、前半は何かと言えば頭に血が上り、喚き走る吉之助の無策にちょっぴりイライラし、後半は島津斉彬の…天才ぶりというよりは奇人ぶりに度肝を抜かれて、終わりよければ全て良しかな?という風味の第4回でした。

 大人編になってから、第2回よりは中身が濃く、第3回よりは内容の詰め込みが薄くて、で、子役編の初回と同様に斉彬が全部持って行ったというところでしょうか。

 次からは新しいターンということで、年月もそれなりに経ちました(ちなみにお茶坊主として前半は坊主頭だった有村俊斎が、最後の方のシーンでは有髪になって青天の髷を結ってましたね)。

 主君が斉彬となったことで心機一転、吉之助の行動も空回りではなく実の伴ったものになっていくでしょうか。少し期待したいところです。

 

(初回からずっと)細かい部分の処理が気になるも…

 ということで、物語はまあ概ね良い方向に進んでるんじゃないかなとりあえず、と言ったところですが、細かい設定がところどころ、魚の小骨が喉に引っかかったみたいに気になるなあ、と思わないでもないです。

 例えば西郷家の三男信吾役の子役さんが、第3回(お腹を壊して寝込んだ)では小柄で細身の子だったのが、第4回では大柄なたくましい子になっている、とか(成人後は錦戸亮さんが演じる従道)。3回目から4回目までに特に西郷家が裕福になった描写もありませんので、ちょっと違和感があります。

 第1回では多少の思慮深さもある描写だった西郷どんが、大人になってからはすっかり単細胞的な思考回路になっている、とかもそう。小吉時代は「喧嘩になるのは腹が空いているから。鰻とり競争をしよう」と言ったり、腕が利かなくなる=出世の道が断たれたと即座に悟ったりと冴えも見せていたのですが。

 あとは女性の扱いも…。

 糸さん(黒木華)が赤山門下生に対してやたら態度が大きいのは何なのでしょうね?ドラマ後半、斉彬藩主就任を喜んで赤山靱負の墓参に来た門下生らを、糸が「みんな遅か!」と叱りつけるところなど。なんでまた?と謎です。

 まるでスポーツ部の敏腕マネージャーみたいに振る舞ってますが、物語的には部活じゃないし、彼女があんなに大きな顔ができるような実績って別にないんだよな…。←この設定もなんだか、昭和(1970年代後半~1980年代前半くらい)の青春ものに出てくるヒロインキャラみたいです。マンガだけど「タッチ」とかさ。なぜまた昭和…。

 そしてなんとなく花燃ゆ(2015)風味でもあるし。花燃ゆ、不評だったんですけどねぇ。この設定だと黒木華さんがもったいない(個人の感想です、あしからず)。あとわりと吉之助の妹:琴も似たような気の強いキャラなので、キャラかぶりしてる気が。こういうところも、もったいないと思うのです。

 とはいえ、糸は第1回から一貫してこんな性格だと描写されてますので、ブレていないところは評価したいと思います。あくまで私がこのヒロイン像を好みじゃないというだけです。

 

歴史の流れがイマイチ解りにくいのが最大の難点

  今のところ、西郷どんは上記の様に細部の詰めがやや粗く(視聴者が見抜けてしまう程度に粗い)、更に背景になる歴史の流れがイマイチ掴みにくいドラマ仕立てなのが難点かなと思ってます。←で、歴史を扱う大河ドラマなので、歴史が解りにくいのが一番まずいかと。

 お由羅騒動というか、斉興vs斉彬については、一応ちゃんと説明が入ってるんですよね。見てる方がそれを繋げて考えることができれば、「ああこういうことなんだ」と納得出来る説明なんです。でも現状、そこが繋げにくい。惜しいなぁ。

 この先も、主人公吉之助の人生には、様々なややこしい歴史的出来事が控えてます。なので、この「歴史が解りにくい描写」という難点のせいで、視聴者が振り落とされませんように。

 でないと、人物の心理描写や繋がりの描き方はじゅうぶん面白いので、勿体ないです。

 (私が観て「歴史の流れはこうなってるのね」と理解した点は別途記事でまとめようかと思ってます。)